The Pon Times

経済、金融関連ニュースの備忘録

ドル円・ロンガーと地ならしの日銀

備忘録、はじめました

皆さん、こんにちは。エコノミスト修行をしているぽんたぬんといいます。この度、経済・金融情勢が日々変わっていく様子をメモとして残しておきたいと思い立ち、徒然なるままに備忘録を書きつけることにしました。

あくまで備忘録なので何かしらインサイトを入れて気づきを与えるというよりは、自分の頭の整理のために書いてます。もしそれが読者の皆様の頭の整理にも貢献できれば願ったりかなったりです。

あと、月にテーマを決めて3冊くらい本を選び、読んだ感想もどこかで簡単にご紹介できればと考えています。お楽しみに。

相変わらず不安定な円相場

まあ、1本目に何をテーマに書くかいろいろと逡巡していましたが、とりあえず足元で為替が動いているのでそれを取り上げることにします。記事のタイトルは一応、ハリー・〇ッターを意識していたり、いなかったり……

ドル円・ロンガー」というのはドル円をロング(買い)している人たちのことを指して書きました。つまり、円安がさらに進むと予想して、価値の上がる米ドルを買って円を売る方に張っている人たちのイメージです*1

こうした予想をしている人は決して少なくないと思いますが、日銀の政策修正は円高要因になりえます。そこで日銀のコミュニケーションと市場の受け止め・予想を概観してみましょう。

まずは、年初からのドル円相場を確認します。

ドル円レートの推移

 

足元で大きく円高・ドル安が進行しているのがわかるかと思います。上記のグラフでは17時時点の為替レートをお示ししていますが、報道をみると一時1ドル=141円台まで円高が進んだとのことです*2。なお、このブログ記事を書いている時点ではまた145円程度まで戻っています。

どうして急激な円高が進んだか。次の記事の解説が詳しいです。

www.bloomberg.co.jp

少し用語が難しいもののライブ感のある書き方をしており、読んでいるこちらもドキドキしてきます。

簡単に説明すると、日銀の植田和男総裁の発言などをきっかけに「日銀が近々マイナス金利政策の解除に動くのではないか」という思惑が強まり、急速に円高に振れたというわけです。

「チャレンジング」発言で為替相場がチャレンジングに

問題の植田総裁の発言はどのようなものだったのでしょうか。7日の参議院財政金融委員会での発言で、次の記事によくまとまっています。

jp.reuters.com

目を引くのはやはり見出しにもとられている「(今後の政策運営が)年末から来年にかけ一段とチャレンジングに」というワード。しかも、「年末から」ときました。

日銀は年8回開かれる金融政策決定会合(MPM)で金融政策の運営を議論しており、12月も18,19日に開催が予定されています。「早ければ今月にもなんらかの政策修正があるのでは?」と思惑が強まったわけです。

また、前日の6日には氷見野良三副総裁による金融経済懇談会(金懇)もありました。ここでも、少し金融緩和の出口を意識しているかのような発言が見られます。例えば、日経新聞の記事では次のような見出し、リードになっています(会員限定記事ということもあるのでここでは記事の内容は引用しません)。

www.nikkei.com

マイナス金利解除はいつか

果たしてマイナス金利解除はいつになるのか。経済指標などをもとにファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)から自分で推測するのはなかなか大変ですので、プロがどう予想しているかを見てみましょう。

調べる方法は大きく分けて2つあります。一つは報道機関などがやっているアンケート調査、もう一つはマーケットを手掛かりにする方法です。

一つ目のアンケート調査では、例えば昨日にBloombergが次の記事を出しています。

www.bloomberg.co.jp

見出しの通りですが、この調査は1~6日に行われていることに注意してください。7日の植田総裁発言を経て、さらに予想時期が前倒しになった可能性もあります。

もう一つがマーケット指標で、オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)と呼ばれるものをみます。こちらはやや難易度が高いので興味のない方は飛ばして大丈夫です。興味ある方はここの説明は雑なので、リンク先の資料なども併せてご覧いただくとよいかと思います。

OISは金利スワップの一つで、代表的な短期金利である翌日物コール金利(TONA)と固定金利スワップ・レート)を交換するスワップです。雑に書くと、毎日変動するような金利と固定の金利をとっかえる取引になります*3

市場関係者のバイブルともいえる東短リサーチ株式会社編の『東京マネー・マーケット(第8版)』には次のような説明があります。

各国のオーバーナイト金利は、一般にその国の中央銀行政策金利との連動性が非常に高い。そのため、金融機関や機関投資家中央銀行の政策変更の可能性を考慮して取引を行う必要がある場合に、OIS市場が利用されている。

要するに、今後政策変更によって金利が上がると予想しているのであれば、たとえ現在の金利が「0.25%」だとしても(仮の設定です)、将来時点で交換する金利はそれよりも高めで取引するよね、というわけです(雑な説明ですみません)。そのため一定程度はOIS取引から市場関係者の利上げ予想がうかがい知れるのです。

例えば、ソニーフィナンシャルグループの宮嶋貴之シニアエコノミストが先月末のレポートで、OISを使って債券市場の政策変更予想を紹介しています。

www.sonyfg.co.jp

結局よくわからないが12月会合はライブ

いろいろとみてきましたが、結局日銀がどのタイミングでマイナス金利解除に動くかはよくわかりません。というのも、これまでも日銀は何度もサプライズで政策修正に動いてきているからです*4

経済指標を見る限り内需はそこまで強くなく、賃上げ状況ももう少し時間をかけてみないと見極めが難しいような気がします。しかし、のろのろしていたら海外経済が大きく減速し、金融緩和の「のりしろ」が乏しいままで厳しい外部環境に変わってしまうかもしれません。

12月会合も直前までなにがあるかわかりません。ただ、日銀のコミュニケーションを見る限り以前よりは金融緩和の出口を意識してきており、それはドル円相場を引き続き不安定にさせる材料になるでしょう。

 

*この記事は投資行動を推奨するものではありません。

 

*1:私自身は(会社の規約などもあって)投資は基本やっていません。

*2:会社のBloomberg端末を使うわけにはいかないのでここでは日銀の統計を参照してグラフを作成しています。詳細は「外国為替市況」の解説 : 日本銀行 Bank of Japan

*3:より踏み込んでOISについて知りたい方には財務省発行の広報誌「ファイナンス」に掲載された服部孝洋先生の解説が、無料で読める上にわかりやすくておすすめです。

「ファイナンス」令和3年12月号~内容紹介~ : 財務省

*4:2014年10月のハロウィン緩和や22年12月のYCCレンジ拡大など。